赤裸々日記

日記
哭礼、というものがある。
要するに葬式でのマナーなのだが、故人を悼んで泣くことである。
ただし、この「泣く」とは、一般的な「泣く」ではない。「慟哭」という言葉があるがごとく、大声を上げて泣きわめくことである。
儒教圏、つまり中国や韓国では現在でも残っている慣習である。今ためしに「哭礼」でググったら、将軍様がお亡くなりになった時の記事が多くてちょっとクスっときた。確かに日本人にはあの空気は理解しがたい。
白い喪服で地べたに身を投げ、アイヨアイヨと泣き叫ぶ。
遺族が。知人が。金で雇った泣き女が。それはもう壮絶に泣き叫ぶ。
そもそも「哭」という字がすさまじい。女3人で姦しいとはよく言ったものだが、「哭」は口が二つある犬だ。全力で吠えたら、それはもうやかましいことだろう。
いや、実は演技でもよいのだ。
実際には涙を流していなくてもよい。とにかく喉が裂けるほどに声を上げて泣・・・き声をあげる。
それが哭礼なのである。
こういったことも含めて「ポーズだけ取ればいいってものじゃないでしょ、心のままに行動するのが真の仁義だよ」と言ったのが陽明学で、「それじゃお前、親父が気に食わなかったら親父を殺して正解になっちゃうだろ」と反論したのが朱子学なわけですが閑話休題。
(※儒者を片っ端からアナウメにした始皇帝に「そこにシビれるアコガれるゥ!!」なほど、儒学については門外漢のかんの言うことなので、あまり真に受けないでください)
まあ、その人の死に際し、どれだけの人がどれだけ泣いてくれたかが、故人のステイタスとなっていたということは、ユーラシアの正反対のうえ海まで超えた先のイギリスに「バンシー」なんて妖精がいたことを例に出すまでもなく明らかである。
その人の死を惜しみ、悼んで涙を流す人がいる。それだけの価値があった人だったのだと。


さて、ここからが全力で私事なわけだが――祖母が亡くなりました。
(そういう話が苦手な方は、ここで読むのをやめてください)




















晩飯を食べている途中でメールが来ていたので見てみると、母から「(父方の)祖母危篤、高知へ帰る準備をしてください」と、電報並みに簡潔なメールが。
一瞬頭が真っ白になった後、あわてて母に電話。一足先に親父が高知に帰ったが、医者には覚悟するように言われたとのこと。

母:「お母さんたちも明日の飛行機で高知に帰るよ、危篤、では忌引きにならないだろうし、お前は職場と相談してきめなさい」
俺:「わかった、まあ、19日から夜勤明け含めて3連休みたいになるから、その時にとりあえず帰るよ」
母:「うん、いとこたちに伝えても仕事があるだろうし・・・そうでなくても来るかわからないしねぇ・・・」
俺:「・・・あ~・・・」
母:「お父さん一人で見送ることになるんじゃないかな」

あえて言う。祖母は嫌われていた。
簡単に言えば「常に自分が一番正しい」と思っているタイプの人物で、祖母からしたら腹を痛めて産んだ子である親父でさえ、祖母のことは疎んじていた。
いとこに至っては伯父(私の親父の兄)の葬式の場で、「お父さんじゃなくてババアが死ねばよかったんだ!!」と叫んだほど嫌っていた。
(ただでさえ湿っぽい葬式の場が、アラスカのように凍りつきましたよ、ハイ)
しかし準備か。喪服は持って行ったほうがいいんだろうか。でも喪服を持って行って持ち直したら気まずいよね。この間買った7分丈のジャケットじゃ喪服にならないだろうか。葬式の手伝いはしたほうがいいのか。
――祖母の死を悼んでくれる人はいるのだろうか。

などとゴチャゴチャ考えていたら、なんだか涙が出てきた。まだ死んでないのに。
祖母の死が悲しいのではない。私も祖母のことはくそばばあだったと思っている。けれど、祖母は祖母なりに私をかわいがっていたのだと、一応理解している。
祖母の死を心から悼む人がいないような気がする。それが、どうしようもなく悲しい。
結局そのあと30分くらいぐじゅぐじゅ鼻をすすりながら泣いていた。

なんとか落ち着いて22時ごろ。
とりあえず夜勤前の夜更かしをとゲームをしていると、母から電話が。

母:「おばあちゃん、19時くらいに息を引き取ってたらしい」

えっ。
それって私が無性に悲しくなって、ぐじゅぐじゅ泣いてた時間帯ですよね?
そうとわかっていれば、もっと身も世もなく声を上げて泣いていたものを・・・
尤も、私が中国文学系の学科に進むことに難色を示したくそばばあ様である(「まさか中国人と結婚するつもりじゃないでしょうね?」と謎のいちゃもんをつけられたw)。中国式の哭礼なんぞで送られてもうれしくはなかったことでしょう。心のままに行動するのが真の仁義だと陽明先生もおっしゃっていたことですし、きっとあれで十分でしょう。

おりしも外は雨と強風、時々雷。
空が哭いてるみたいだ。なんて、漫画のようなことを思ってしまいました。


(この日記は後日消すかもです)