赤裸々日記

日記
夜勤前。
全力で寝てました。













本日の小劇場・・・は、へたりあの誰得自分設定全開な、イギリス・にょたイギリスの話です。
興味がないorそういうの好きじゃない方はスルーしてください。










***本日の小劇場~アリス・イン・ワンダーランド~

 私の名前はアリス。
 見事なガーデンの中心の、そこそこ立派なお屋敷に住んでいる。
 一緒に住んでいるアーサーは、たぶん、私の兄さん。
 なぜ兄さんだと思うのかは、私もアーサーも、ファミリーネームが「カークランド」だから。
 ・・・なぜ「たぶん」なのかは、アーサーはこのお屋敷の主で、私はメイドだから。

 このお屋敷で、住み込みのメイドは私だけ。
 とはいえ、昼間はたくさんのメイドやフットマンが来るし、そもそもアーサー自身が自分で家事も料理もしたがる人だから、私の仕事はあんまりない。
 軽くモップがけをして、戸締りをして、消灯。そのくらい。
 紅茶もアーサーが自分で入れる。それをメイドまかせにするのは、お客さんが来たときぐらいらしい。
 
 お客さんが来たときは、たいてい私はガーデンに追いやられる。
 アーサーと同じぐらいの年頃のお客さんは、あんまり見たことがない。
 よくわからないけど、とても大事な話をしているらしい。
 といっても、ほかのメイドさんも、お茶を出したらすぐに部屋から遠ざけられるらしいから、詳しくはわからないんだけど。
 
 一度だけ、この屋敷から外に出たことがある。
 何年前のことだったかはもう覚えていないけど、出かけるときはいつも秘書を連れて行くアーサーが、私についてくるように命じたのだった。
 きれいな絹のドレスを着せられ、馬車で連れて行かれた場所は、自分たちが住むお屋敷よりもさらに立派なところだった。
 物珍しさにきょろきょろとあたりを見回すと、もっと神妙にしてろ、馬鹿、と怒られた。
 言われてから気が付いた。
 このお屋敷は、消灯したあとの自分たちのお屋敷よりも暗く静かで、悲しみに満ち満ちていたのだ。

 案内されて、ある部屋に入る。
 部屋の真中に、キングサイズのベッドと数人の男女たち。
 みんな、一様に暗い表情で顔を伏せ、時々涙をぬぐっている。
「サー・カークランドのおなりです」
 先導していた男性が言うと、その場にいた人々が一斉に腰を低くして礼を取る。
 慌てて自分も礼を返そうとすると、アーサーに手で制された。
 仕方がないのでそのまま立っていたけど、とても居心地が悪かった。
 と同時に、驚いてもいた。
 私はこのとき初めて、アーサーが「サー」と呼ばれる地位にいる人物であることを知ったのだ。

 アーサーはベッドに近寄ると、天蓋から垂れた天幕をめくった。
 しばらく中をじっと見つめた後、跪いて十字を切り、たった一言だけ言った。
「親愛なるベスよ、安らかに」
 本当にその一言だけで、アーサーは踵を返した。
「ボサっと突っ立ってるんじゃねえ、行くぞ、アリス」
 私は結局、ほんとうについていっただけで、誰がなくなられたのかも知らずじまいだった。

 今日もお客さんが来たため、私はガーデンをぶらぶらしている。
 気に入った花があれば、勝手につんで自分の部屋に飾っていいと言われているので、私はバラの花壇を見ていた。
 花の中では、バラが一番好き。特に、赤いバラが。
 今日のお客さんはずいぶんと長話をしているらしい。もう4時間ぐらい経ったと思う。
 さすがにずっと外にいるのも疲れてきたので、こっそり自分の部屋に戻ってしまおうと思ったら、ちょうど出てきたらしいお客さんと鉢合わせになってしまった。
「きゃっ、」
「おっと・・・大丈夫かい、マドモワゼル」
 フランスの方らしい。慌てて頭を下げながら言った。
「大変失礼いたしました、ムッシュウ、お怪我はございませんか」
「おや、なかなか綺麗なフランス語だ」
 お客さんはひゅう、と口笛を吹いた。
「フランス語が話せるメイドはこの屋敷でも珍しいんじゃないかな、自信もっていいよ、お嬢さん」
「お、恐れ入ります」
 自分の頬が熱くなっているのがわかった。アーサー以外の男性と話すこと自体稀なのに、こうも手放しで誉められては。
「しかし、見たことがない顔だね、最近入った子?」
「いえ、長く勤めさせていただいております」
「ふうん、おかしいなあ・・・お兄さん、お嬢さんみたいなかわいい子は、一度見たら忘れないんだけどな~」
「は、はあ・・・えっ?」
 思わず顔を上げて、素っ頓狂な声を出してしまった。長めできれいな金色の髪と、澄んだ青い瞳がまぶしい。
「ねえ、お兄さんはフランシス・ボヌフォワって言うんだけど、お嬢さんは?」
「え、あの・・・」
「名前、教えてくれない?お兄さん、お嬢さんのこともっと知りたいの!」
「名前、私の、名前、ですか?」
 そうそう、と首を縦に振る。というか、近い。顔が近い。
「アリス、アリス・カークランドです」
 すると、それまでニコニコしていたフランシスさんの顔から笑みがさっと消えた。
 何かおかしいことを言ってしまったのかしら。
 フランシスさんはしばらく思案顔で沈黙したあと、言った。
「ねえ、アリスちゃん、女性にこんなこと聞くのは気が引けるんだけど・・・今、何歳?」
「えっと、歳ですか?」
 そういえば、何歳だっけ・・・
「すみません、よく覚えていません・・・あっ、でも、クリスマスプディングを100回以上は食べたような気がします」
「そっかー、100回以上かー・・・」
 フランシスさんは手で顔を覆った。まるで、地獄行きの宣告でもされたかのように。
「・・・あの」
「――ごめん、アリスちゃん、お兄さんちょーっとアーサーと話さなきゃならないことができたわ」
 言うが早いか、フランシスさんはまたお屋敷の中に戻ってしまった。

 *

「・・・イギリス!」
「ンだ髭、ポンド相場についてはさっき話がついただろうが」
 イギリスは残りの紅茶を啜りながら、書類を眺めているところだった。
「イギリス、本当のことをいえよ・・・アリス・カークランドとは、何者だ?」
 ぴくり、とイギリスの肩が動いた。しばらく言葉を探すような間があいた後、小さく、会ったのか、と声がした。
「イギリスっ・・・」
「――その様子だと、もう察しはついてるんだろ」
 答えにはなっていないが、これ以上の答えはない。この皮肉屋の友人は、いつだって直接的な回答をしない。
 フランスは深くため息をつくと、客用の椅子に座り込んで言った。
「――いつ、生まれた」
「多分、ベスが――エリザベスが、国と結婚するとか言い出したときだ」
「500年ぐらい前じゃないか!」
「そうなるな」
 イギリスは空になった紅茶のカップを手で弄びながら答えた。
 あまりにも他人事のように言うので、フランスは次第に焦れてきた。
「あのね、なんでお前はそんなに冷静なの!500年も前にお前の代わりが生まれたんだ、お前、いつ消えちゃってもおかしくないんだぞ」
「まあな」
「まあなって・・・すぐにでも各国に公表して引継ぎをしなくちゃならないのに、お前が消滅したあと、困るのはアリスちゃんだろ」
「アリスのことは、わが国の歴代の宰相と王族に伝えている」
 フランスが片眉をあげて身を乗り出した。
「書類整理を手伝わせてるから『イギリス』のやりかたはちゃんとわかっているし、書庫の本も自由に読んでいいと伝えているから、その辺の学者よりは博識だ、自慢の妹だよ」
「イギリス、お前・・・」
 フランスは絶句した。10回会えば10回喧嘩するような仲だが、それでも千年来の友人だ。その友人にも黙ってイギリスが――いわば死ぬ準備をしていた。フランスはそれを純粋に、かなしい、と思った。
 すっかり肩を落としてしまったフランスを見ながら、イギリスは言った。
「イギリスにも、妖精が見える奴や、魔法が使える奴は少なくなってきた」
 イギリスの言葉を、フランスは笑わなかった。
「かわりにシェイクスピアの悲喜劇、ミステリー、階級と紳士的な行動が『イギリスらしさ』になった――もう、ファンタジーと騎士道の国ではないのさ」
 ケルト伝承と騎士道精神の象徴である『アーサー』。
 文学と、それを笑い飛ばすウィットの象徴である『アリス』。
 国であり、国民性である彼らの性質は独特だ。
「ベスは――アリスのことを、真の女王と呼んでいた、女王のために生き、女王のために死ぬんだ、『サー』としてこれほど名誉なことはねえよ」
「お前の冗談は昔っからつまんねえんだよ」
 フランスが、つぶやくように言った。
「愛もエスプリもありゃしない」
「ばーか、つまんねえのはお互い様だ」

 *

 またフランシスさんがお屋敷から出てきた。
 少し、疲れているように見える。
 声をかけるべきか迷っていると、フランシスさんのほうがこちらに気付いて近づいてきた。
「やあアリスちゃん、お兄さんのことそんなに熱い視線で見ちゃって・・・ひょっとして惚れちゃった?」
「ち、違います!」
「あー、必死に否定しちゃって、ますます怪しいな~」
「もう!」
 手にもっていたバラを一輪、フランシスさんのかばんにねじ込んだ。バラのとげで、かばんが傷だらけになっちゃえばいい!
「おっ、くれるの?お兄さんうれしい!じゃあお兄さんは変わりにコレをあげようかな!」
 そういって懐から出したのは、一枚の名詞だった。
 名前はさっき教えてもらったフランシス・ボヌフォワではなく、フランス、と国名だけが書かれていた。
「――?」
「電話番号とメアドも書いてあるから――困ったことがあったら、いつでも連絡してね」
「えっと・・・」
「アデュー!『レディ』カークランド!」
 行ってしまった。
 まるで、花吹雪のような人だ。
 
 アーサーの部屋をノックする。入っていいぞ、と返事があった。
 バラを持って入室すると、アーサーはトランプ占いをしていたようだった。肘を突いて、どのカードをめくるべきか悩んでいる。
「――フランシスに会ったんだな」
「うん、会ったわ」
「奴のこと、どう思った」
「どうって――」
 さっき会ったばかりの、花吹雪のような人のことをもう一度思い浮かべた。
「いい人だけど、苦手だわ」
「まあ、そうだろうな」
 くっくっと笑いながら、カードを一枚めくる。少し眉をしかめて、そのカードを別の場所に置いた。
「めずらしいな、白いのを摘んできたのか」
 アーサーは、私の手元を見ながら言った。
「ええ、たまには気分を変えようかと思って」
 手にもっているのは、全部白いバラ。白いバラを何本か、アーサーの部屋の空の花瓶に活けた。残りは自分の部屋用。
「お気に召されないようでしたら、ペンキで赤く塗りますわよ」
 笑いながら言うと、アーサーもにやりと笑った。
「まあ――女王陛下がそれでいいと仰るんなら、それでいいんじゃねえか?」
 ぴっと差し出されたのはハートのクイーン。
 私とアーサーは、声に出して笑った。

***

ぴくしぶでにょイギリスが「アリス」と名づけられていたのに燃え滾って。
あと、画集おまけでイギリスがクイーンだったので(どういうことなの!/笑)