赤裸々日記

劉アニキのはなし
昨日の日記、参考HPのアドレスが抜けていたようなので訂正しました。反省反省。

さて、本日は月妹が劉邦の話をしていたので、劉邦の話です。
先に言っておきます。私は劉邦が大好きです。
そしてこの話をすると、たいがいの相手がやっぱり劉邦を好きになります(笑)

そも、漢高祖劉邦という人は、ただの農村のおやじさんでありました。『史記』では一応下級役人からスタートを切ったことになっておりますが、その『史記』の記述から劉邦の身分は限りなく底辺に近かったと思われる。『史記』高祖本記での記述は以下のとおり。

高祖(中略)姓劉氏字季。父曰太公、母曰劉媼。
高祖様の姓は劉で字は季。父上は太公、母上は劉媼。

特に問題はないように見えるかもしれないが、「太公」はおとうさん、「媼」はおかあさん・おばあさん、「字は季」とのことだが、これは字というより排行(貧しい家などで名前をつけられないので生まれた順につける名前)に近い。ついでに名前の「邦」は当時の言葉で「~のアニキ!」という意味だとする説もある。
つまり、『史記』の記述を正しく訳すとこうなるわけです。

高祖様・劉のアニキは劉さんとこの末っ子。オヤジはおとっつぁん、おふくろは劉ばあさん。

要するに、誰一人として名前がないくらい貧しい劉ファミリー。酒好き女好き博打好き、ノータリンの厄介者でしたが、顔立ち概要に立派なのと豪快で面倒見はよいので人には好かれるお人柄。
その後どんな魔術を使ったのかはしらないが、地方役人になりました。しかし亭長か。ほんとに何があったんだ?

さて、(腐っても)お役人になった劉邦ですが、これがまじめに仕事をしない。仕事は蕭何とかできるやつに任せて、ちょいワル仲間と昼間からどんちゃん酒盛り、ちなみに金は払わずツケ(つくってると思われるかもしれないが、『史記』にそう書かれちゃっているので仕方がない)。
で、この酒盛りの最中に、気分が乗ってくるとかならず着物の裾をグイっとあげて自慢するわけです。
「俺様の股には72の黒子がある!俺様は偉くなるんだぜ!」
そんなひとところに黒子が密集していたらヒフ病かなにかではないかと思うのだが・・・だいたい股に72の黒子があるとどうして偉くなるのか?注釈を読んでもわかったようなわからんような。きっと・・・というか本人も絶対分かってない。でも一緒に飲んでた友達も馬鹿なので、大喜びで劉邦のまたぐらひっくりかえしてホクロを数え始める。毎日そんな馬鹿騒ぎの繰り返しでした。

ここで「おや?」と思われた方も多いでしょう。そう、中華は素肌を見せるのを恥とするお国柄!にもかかわらず、(バカ)劉邦は(バカ)仲間に自分の股を晒している。これだけでも劉邦のお里が知れるというものでしょう。
・・・坊ちゃん育ちの張良が劉邦についていってしまったのは、この毒気に当てられてしまったからかもしれません・・・(笑)

しかしそんなバカのバカなりに楽しいバカ生活は長くは続きません。劉邦軍団(なんかお笑いみたい)はひょんなことから反乱軍に身を投じ、あれよあれよと項羽を倒して皇帝へ。
え?省きすぎ?そんなん気になる人はテメエで古本屋に行ってしばりょーの「項羽と劉邦」でも買ってきてください。

長い前フリでありましたが、ここからが本題です。

さて、皇帝になった劉邦は根っからの儒家嫌いでした。儒家!いっつもいっつもしたり顔で、この俺様に説教しやがって!お父さんお母さんを大事にしなさい、先王の教えを学びなさい、金より信用、信用銀行、えいくそ、てめえら口先ばっかでいざというときはなんにもしなかったじゃねえか!どうせ俺様の出自が低いことを馬鹿にしてるんだろ、ふん、武力で成り上がった田舎の大将
だと思ってるんだろ、くそ、くそ!あいつら見ているだけで胸くそわるくなるってんだ、あ、てめえ!またしゃしゃり出てきやがって!ふざけんな、とっとと出て行け!てめえその冠ひっぺがして中に小便したるぞ――!
とまあ、そのくらい儒家が嫌いだったわけですが、それはそれとて彼にもひとつの悩みがございました。というのも――今でこそ皇帝さまやら相国さまやら丞相さまやらご大層な肩書きがついているが、もともとはみんな田舎の下級役人。朝議も飲み会も、途中からランチキ騒ぎになっちまう。これはなんとかならねえもんか、と。
・・・昔、自ら股ぐら晒していた男が思うくらいだったのだから、相当だったのでしょう。
なんか違うんだよな、こう、皇帝さまのお膝元としてな、と思っていると、そこへ現れたのが儒者の叔孫通。これが
「今度の儀礼の指導、臣におまかせくださいませ、きっとご満足いくものをお目にかけましょう」と。
それを聞いた劉邦、冠とって(規制)ぐらいに大ッ嫌いな儒者の言うことでしたが、憂慮していたことではあったので、とにもかくにも一度やらせてみるかと叔孫通に指導を命じます。

数日後、祝典の日・・・劉邦が堂に上がると文武百官ザッと並び、微動だにいたしません。おっ?と思いつつ、叔孫通の言うとおりに玉座の前に立つと、全員がいっせいにひれ伏して叫んだのでした。
万歳、万歳、万々歳――
劉邦は思わずのけぞりました。
――こいつらが、全部俺の手下か、
己に向かって一斉にひれ伏する百官、柱にびぃんと響く賞賛の声。
――この中華の民、全部が俺の意のままか!

式典のあと、劉邦は叔孫通を呼び出して言いました。


「いやー、知らんかった!皇帝っつーのはあんなにエライもんだったんだなあ!!」

***

オイオイオイオイお前儒家見たらひっぺが(中略)くらい儒家が嫌いやったんと違うかっつーかえらい単純やな!

なんだかんだで単純馬鹿の劉邦が、私は大好きです。