日記
夜勤前でぐうぐう寝てました。
現在夜勤中です。余震多いなぁ・・・
久々に昔の小説を読み返したんですけど、昔の趙雲ほんまオカタイな・・・(笑)
最近は歴史ものっぽいのよりも、とりあえず鬼畜ゑろに走っているので、どちらかと言うと俺様かあほのこですね(歴戦の武将に失礼だw)
というわけで本日の小劇場は、あほのこ路線です。
あっ、でも鬼畜ではないです(笑)
***本日の小劇場~鹽鐵論入門~
となりでもぞもぞと動く気配を感じて、趙雲は目を覚ました。
一瞬不審者かと思ったが、そういえば本日は軍師と共寝をしていたのだったと思い当たり、そっと腕の中のひとを伺った。
孔明は頬を紅潮させ、眉根を寄せて、いやいやをするように首を振る。
具合が悪いのだろうか。趙雲がじっと様子を見ていると――
「――塩、塩・・・塩が・・・」
「――」
趙雲はあきれた。どんなしょっぱい夢を見ているのだ。
ひとまず(ばかばかしそうな内容とはいえ)夢にうなされているようなので、趙雲は孔明を起こしてやることにした。
軍師、軍師、と呼びながら軽く揺さぶると、孔明は短く唸ってから目を覚ました。
二、三度目をしばたかせたあと、眠たそうな目で左右を見回し、ようやく趙雲の視線とぶつかる。
「――あれ、子龍?」
「ええ、おはようございます」
背中をさすってやりながら、趙雲がほほえむ。
まだ半分、魂魄が夢の中のようで、ぼんやりとまばたきを繰り返している。
かわいい、と思いつつ趙雲は言った。
「塩の化け物に追いかけられる夢でも、ご覧になりましたか」
「――は?塩の化け物?」
心底意味がわからないという顔をした後、孔明はあっと声をあげた。
「ひょっとして私、寝言を言っていたのか」
「ええ、ひたすら塩、塩と」
「うわ・・・」
孔明は、恥じ入るように口元を押さえた。どうもまだ眠気が残っているらしく、行動の一つひとつが素だ。
「――どのような夢であったのか、お聞きしてもよろしゅうございますか」
趙雲がやさしく言うと孔明は、少しだけ逡巡した後言った。
「別に――化け物が出たわけではない、近頃の懸念について、夢の中でも悩んでいただけだ」
「懸念、にございまするか」
意外にも真剣な話のようであったので、趙雲は声と顔の表情を改めた。
「さよう、実は――ここ数ヶ月、塩が値上がりしつづけている」
趙雲は正直、拍子抜けした。
というのも、臥龍とも称された軍師将軍のここ数日の懸念が、その辺りのおかみさんと似たような内容だったからだ。
趙雲の鼻白んだような表情には気付いていない様子で、孔明は続けた。
「ほら、益州は肥沃な土地ではあるが、塩の産地ではないだろう?だからどうしても江東や山東、あるいは岩塩の産地から輸入してくる必要があるが――どうしても敵地を通る関係で、値段が高くなっているのだ、いや、高くても買えるうちはまだよい、江東が出し渋っている様子でな、このままでは供給が足りなくなってしまう」
荊州さえ失わなければ、まだ流通はましだったのだが――孔明はいまいましげに呟いた。
たしかに益州は険阻な山に囲まれ、守るには容易いが流通と言う意味では不利である。しかしそれは塩に限ったことではない。
「軍師、貴公――」
趙雲は思わず、
「そのような瑣末事で、ずっと悩んでおられたのか」
「瑣末事!?」
孔明が目を見開いた。眠気は完全に飛んだようだった。
とっさに趙雲は、怒鳴られる、と思った。しかし孔明は、ふっとやわらかく笑って言った。
「まあ――瑣末といえば、瑣末だな」
言いながら趙雲の胸元に顔をうずめた。
「――軍、」
「もう寝る、起こしてくれてありがとう――思えば夢の中まで仕事のことを考えていただなんて私もそうとうだ、今度はお前と遊びに行ったときの夢でも見るよ」
孔明の声に、怒りやあきれの色はない。それだけに、なにか強い拒絶のようなものを感じて、趙雲は落ち着きなく、そのあとしばらく眠れなかった。
次に目覚めてから、孔明はあまりにもいつもどおりだった。
ともに朝餉を取って、身支度を整えて、すこしだけ抱擁を交わして、先に出仕した。
それだけに取り残された趙雲は、よけいに昨日の違和感に近い感覚が、胸の内にもやもやした状態で残っていた。
ふと、馬に飼料をやっている楊翁に言った。
「楊、今日の夕餉はいっさい塩を使わぬものにできるか」
「塩を使わぬもの――でございますか」
あいかわらず表情ひとつ変えぬ老人であったが、めずらしく口篭もるような間があった。
「できなくはないと思いますが――今日の今日ですと、ろくなものが作れぬかもしれませぬ、塩がなくても旨いものは、難しいかと」
言外に「何を突然」といぶかしんでいるようである。
「いや、どちらかというと、普段どおりでよいのだ、普段どおりの食事から、塩だけ抜いてみてくれ」
「では、そのように庖人にお伝えいたしまする」
楊は理由を聞いたりはしない。ただ、趙雲の言に従うのみである。
趙雲が満足げに頷き愛馬の手綱を握る。と、その視界の端で、楊翁が思案するように突っ立っていた。
「――やはり難しいのか」
「はい、まず保存食が使えませぬ、肉も魚も、場合によっては野菜も塩漬けで備蓄いたしますゆえ」
「ああ――なるほど」
確かに肉は、売りの時点で塩漬けにされていることが多い。
そうなると、塩がなくなると肉がまず食えなくなるのだろうか。
衣食にさほど頓着しない趙雲ではあったが、それはさすがにさみしいと思った。
「――重ねて言うが、庖人には無理に旨いものを出さなくてもよいと伝えよ」
「かしこまりました」
さて、趙雲が仕事を終えて家に帰ると、すでに食事の準備ができていた。
蒸した米に、おかずが二皿。楊に目で問いかけると、確かに塩は一切使用していないとの事である。
趙雲は、まず一口食べた。
庖人は、無理をするなとは言われたが、それでもかなり試行錯誤したようだ。
まず材料に味の強いものを利用し、塩の変わりに違うもので味付けをしている。
しかしそれでも――文字通り「一味足りない」。
米とおかずをたらふく食い、酒で流し込んでも、それでも喉と腹が「物足りない」と訴えていた。
「だんなさま、いかがですか」
庖人の李三がにこにこしながら寄ってきた。
「うむ――腹はいっぱいなのに、物足りない、妙な感覚だ」
「そりゃあまあ、だんなさまは武将でいらっしゃいますし」
「関係があるのか、それは」
もちろん、と李三は言った。
「塩は誰にとっても必要なものですけど、特に農民や武将のような、汗水たらして働くお人には大事なもんですよ、ほら、汗ってしょっぱいでしょ、ありゃあ汗に塩が染みているんでさあ」
「そういえば――汗をかきすぎて熱中症になったものには塩水を飲ませるな」
「ああ、それもありますねえ」
李三がうんうんと頷く。
「塩はただの味付けじゃありません、体が必要としてるから、体に入れるんですよ、まあ、それを言ったらどんな食いものだってそうですけどね」
今日の李三はずいぶんと饒舌である。
趙雲は厨房で背を丸くして下ごしらえをしている姿しか見たことがないために、意外だった。飯の種にしている「食いもん」の話だからだろうか。
「時に李よ、お前から見ても、塩の値段は上がっていると思うか」
「えっ、値段ですか?」
李三は目を丸くした。
「――ははあ、それで塩抜きで料理をしろとおっしゃったんですね、たしかにここ数ヶ月で二倍近くに上がってますよ、将軍さまなのに市井の物価にも目をつけていらっしゃるとは、さすがだんなさま!」
趙雲はそれに対してはあいまいに返事をした。いまさら、軍師将軍の完全な受け売りである――などとは言えない。
「まあ、ご安心くださいませ!」
李三が、どんと胸をたたいた。
「それはそれ、ちゃあんと他で帳尻あわせてやってますからね、今日はご命令でしたから塩抜きで作りましたが、あっしがここの台所を預かっている以上、天下の趙将軍に『飯が物足りない』だなんて言わせませんよ、だんなさまがいつ何が起こってもちゃんと働けるよう、毎日うまい食いもんを作ることが、あっしの誇りでさあ」
「それは――」
趙雲はあっけにとられたように李三を見上げた。と、同時に、あることに気付いた。
孔明があれ以上何も言わなかったのは、李三と同じ気持ちであったのではないか――?
軍師将軍、という肩書きではあるが、孔明の本性(ほんせい)は為政者であり、太守を務めたことはあるが、趙雲の本性は武将である。
兵糧や物資は、武将にとっては「足りている」ということが前提なのだ。
だが孔明にとっては?
予算と流通、需要と供給、人員、手立て――諸々ひっくるめて完璧に手配し、前線へも百姓(ひゃくせい)へも行き渡るようにせねばならぬ。
――瑣末といえば、瑣末だな。
そう言って孔明は笑った。
お前は塩のことなど気にせず先に進め。お前と、この蜀の人々皆が、米や塩の値段など瑣末なことだと笑えるような世にするのが、私の誇りだよ。
あれは、そういう笑顔ではなかったか。
「――頼もしいな」
趙雲がかみしめるように言うと、李三は急に気恥ずかしくなったのか、慌てて顔を伏せた。
もじもじと俯きながら、ありがとうございます、と言った。
「ええと、そうそう、だんなさま、一応もう一品作ってあったんですよ」
「え?」
正直、すでに満腹である。
「あっしとしたことが出し忘れちまっていたようでして――塩味の白湯(スープ)なんですけど、どういたしやしょう」
ちら、と李三が上目遣いで趙雲をみた。その視線に、いたずらっぽい色がにじんでいる。
趙雲は笑っていった。
「そうだな、もらおうか」
へい!と拱手すると、李三はうれしそうに部屋から出て行った。
――明日、あの方に詫びねばならぬな。
趙雲は、心中で呟いた。
そもそも孔明は、めったに泣き言を言わない。たまに語ってくれた恋人の悩みを、瑣末などと言って一笑に付してしまった。
白湯が運ばれてきた。添えられた蓮華は使わずに、そのまま皿を持ち上げて飲んだ。水とも酒とも違う、体の隅々まで染みるような味だった。
***
太守の経験がある趙雲が、塩の重要性を理解していなかったとは思えないけど・・・まあ、話の都合上って事でひとつ。
ちなみに「鹽鐵論」は、現在の字で書くと「塩鉄論」、漢代の政治論が書かれた書物です。
塩と鉄は重要だから国専売にするのは当然だぜ!って内容。
まあ、ちゃんと読んだことねっけど。
あと「庖人の李三」にニヤリとした方、友達になりましょう(笑)