赤裸々日記

日記
夜勤前。
とりあえずぐうぐう寝てました。
ゆたんぽぬくい。
























***本日の小劇場~1問10ピカラット~

 孔明は夢の中にいた。
 初めから夢だとわかっている夢もめずらしいと思いつつ、辺りを見回してみると、一人の老人が近づいてきた。
 知らぬ顔である。しかし人品卑しからぬ雰囲気をまとっており、孔明は自然と頭を下げた。
 そのまま名乗ろうとすると、老人はそれを手で制して言った。
「これから貴公に、いくつかの問題を出します」
「問題、ですか?」
「左様、」
 孔明は怪訝そうに小首をかしげた。
「何、不正解でも特に貴公に不利益は無い問題です」
「はあ、」
 そういうことなら、と孔明が言うと、老人はすうと手を挙げた。
 すると何も無かった空間に、漆喰の壁と扉が現れた。
「初めの問題です」
 老人が言う。
「この扉の向こうに何があるか、わかりますか」
「この扉の向こう――」
 孔明は扉に目をやった。
 何の変哲も無い、観音開きの扉である。扉を叩いても反応は無く、押しても動かず、誰何しても返事は無い。
 次ぎに周りの壁を見た。不思議な壁で、上にも左右にも途切れが無い。覗けるような穴も無い。
 しばらく扉の周りをうろうろした後、孔明は言った。
「わかりません」
「正解です」
「えっ?」
 孔明は驚きの声を上げた。
「なぜ正解なのですか?」
「問題は『この扉の向こうに何があるか、わかるか』です」
 老人が朗らかに笑った。
「この状況で何があるか、わかるはずもない、ですから『わからない』で正解なのです、逆に城だのなんだのと無理矢理何かを言おうとしたら、それは不正解だったのです」
「なるほど」
 孔明は苦笑した。なんだ、ただの言葉遊びか。
「では今の問題を踏まえた上で――次の問題です」
 老人が言うと、さきほど少しも動かなかった扉が開いた。
 扉の向こうは庭であった。
「ここがどこか、わかりますか」
「――はい」
 よく見知った庭である。ここは自分の職場だ。そうだ、あの扉は職場の扉と一緒だったではないか。なぜ気付かなかったのか。
「中に入りましょう」
 老人が先導した。庭を抜けるとまた扉があった。
「この扉の向こうが誰の部屋か、わかりますか」
「はい」
 場所から考えると、ここは自分の部屋である。答えた途端、また扉がひとりでに開いた。
 開いた扉の向こうに、赤い大きな箱がある。孔明の体がびくりと震えた。箱の蓋は無く、中に横たわる男がそのまま見えた。
「ここに居る男が誰か、わかりますか」
「――はい」
 知っている。数十年来の友であり、恋人であり、わが比翼の鳥。
「ではこの男が、生きているか死んでいるか、わかりますか」
 孔明は暫し、沈黙した。
 男の顔は安らかである。目立った外傷も無い。触れてみようかと手を伸ばしたが、眠っているだけなら起こすに忍びない――
 やがて孔明は言った。
「――わかりません」
「不正解です」
 老人の言葉は、冷たかった。
「貴公はほんとうは、わかっているのだ――『私』が生きているのか、死んでいるのか」
「えっ、」
 そこで、目が覚めた。

 しばらく孔明はぼんやりと天井を見つめていた。
 そう、ほんとうはわかっているのだ――
 松の枝が落ちた。ただの気のせいだ。占ってみたら「大将の死」と出た。ただの占いだ。趙統が拝謁を願い出た。何か特別な事情があるのだろう。死を告げられた。何かの間違いだ。棺が到着した。悪い冗談だ。別の誰かではないか。自分が彼を見まちがうものか。眠っているだけではないのか。息も脈も無い。
 ――もう、自分を誤魔化せなかった。
 目尻から涙が一筋流れた。もう涙など涸れたと思っていたのに。
「子龍――」
 友であり、恋人であり、わが比翼の鳥。
 彼のひとはたしかに、永い永い眠りについたのだ。

「次に、趙将軍の諡号の候補についてでございますが――」
「趙将軍の追諡は行わぬ」
 え?と姜維が顔を上げた。全く想定していない答えだったようである。
「――お言葉ですが、趙将軍は陛下の名において追諡されるに足るお方であったと存じますが」
「そうだな、将軍の功は先帝のご義兄弟方と同等に高い」
 では、と言い募る姜維を手で制し、孔明は言った。
「よいか、北伐は趙将軍にとっても悲願であった、それが成らぬうちに亡くなられた将軍のお心内は察して余りある、黄泉にて無念の涙を噛み締めていることであろう――今、残された我らにできることは、亡くなられた将軍に追諡することではなく、彼のひとにとっても悲願であった北伐と天下統一を達成することではあるまいか」
「それは、そうかもしれませんが――」
 姜維は不満を隠さなかった。趙雲は姜維にとっても、敬愛する武将であった。さらには蜀すべての人の――或いは魏や呉の者にとっても、尊敬と思慕の対象であった。
 だが孔明は、たとえ国中の人々の反感を買うことになろうとも、趙雲に諡号――死人におくる名など与えたくはなかった。
 ――貴公はほんとうは、わかっているのだ、
 ふと、夢の中の、「知らぬ老人」の悲しげな言葉が、孔明の頭の中に響いた。

***

孔明の在命中に趙雲が追諡されなかったのは孔明が趙雲の死を認めたくなかったからとかだと萌えね?って話。

ちなみにこれ書く為に趙雲が死んだときのことを改めて調べたんですが、そのなかに「孔明は片腕をもがれたようなものだと嘆いた」という記述がありました。それなんて比翼の鳥。
・・・あんまりこのへんの史実を萌えとか言うと、不謹慎なのかなぁ・・・