小劇場で力尽きた。
2週間くらい前に言ってたやつです。
どうもブランクがありすぎるためかうまくかけなかったので、結局小説じゃなくて小劇場としてあっぷしますよ。
明日からまた仕事だーなぁ~・・・
私信:綾乃しゃんへ
ブリ大根は煮るだけの食い物なので、味付けを間違えなければたいがいおいしく作れますぞ(笑)
***本日の小劇場~風に吹かれて~
酒の勢いだったとしか言いようがないのだが。
いろいろと溜まっていたものを、最悪にもすべて吐き出すようにして子龍にぶつけた。
もういやだ、やってられるか、なにもかも知るもんか、全部疲れた。
恋人同士の逢瀬には、とてもではないが似つかわしくない言葉の数々を黙ってうなづきながら聞いた後、子龍はゆっくりと言った。
「では、旅にでも出ましょうか」
「・・・え、」
呆然としている間に子龍はわが君への面会と長期休暇の許可をとりつけ、さっさと旅支度をはじめてしまった。申請する方も申請する方だが、許す方も許す方だ。不在の間のことを、家のものや部下にいいつけ、よい馬を選び、路銀を数えて、通行証の取得も忘れない。なにか持ち物は?と言われたので、思わず気に入りの書物を差し出すと、子龍はそれも己の荷に積んだ。自分の手元には、妻に(笑顔で)渡された、水と干菓子だけが残った。
「ああ・・・肝心の行き先を決めておりませんでした」
荷を積んだ馬に自らも乗り、ようやく子龍が言った。
「どこか、ご希望の場所はありますか?」
「西」
あまりに自然に言葉が出たことに、自分が一番驚いた。
「東の果ては見たことがあるから、西の果てを見てみたい」
胸が高鳴った。
ゆっくりと馬を歩ませる。上背のある二人組はそれなりに目立ったようだが、妙な輩にからまれたり、盗賊に狙われたりということもなかった。どうやら、子龍の体格があまりに立派なので、悪党どもも迂闊に手出しができぬようであった。
「なんだかなつかしいな、こういうの」
ポツリと呟くと、少し斜め前を歩いていた子龍が振り向いて、先を促した。
「隆中にいたころは・・・ほんとうにちょっとしたことでふらりと旅に出たものだったよ、雪が降ったとか、梅が咲いたらしいとか、川辺へ納涼にいこうとか」
そうそう、それでわが君の二度目のおとないをすっぽかしたのだ。
くすりと笑うと、子龍も柔らかく笑った。
「あのころは本当に――何処にだっていける、何にだってなれると思っていたな――」
みずからをいにしえの賢人に比し、飲んで歌って気ままに日々を過ごした。
今はどうだろう。あの頃の自分が望んだような人間になっただろうか。
なるほど、位は人臣として最高の位についたやも知れぬ。だが、その位を得るまでに、どれだけ多くを犠牲にしてきたことか。ともに旅に出た人たちには、もう会えない。民を守りたいのだと言った劉玄徳の志に感じ入り、劉玄徳のために戦った。だが、戦った相手もまた、徴兵された無辜の民であった。
守るために、殺すのか。そう思った瞬間、前に進むのがおそろしくなってしまった。
ずいぶんと手も汚した。公明正大な軍師さまなどと言って皆は慕うけれど、闇のうちに葬った命も少なくはない。初めて人を斬ったときの感触が、まだ手に残っている。結局あの時は、自分で止めがさせなくて――
「――一雨きそうですな」
子龍のことばに、はっと我に返る。
「すこし、駆けますぞ、次の村に間に合うかもしれませぬ」
子龍の大きな手が、ぽんと優しく肩を叩いた。
そうだ、止めがさせなくて――結局、この優しい手にころさせたのだ。
懸命に馬を走らせたのだが、宿にはいる前に雨に降られてしまった。子龍は宿の亭主に渡された布で、まず私の頭を拭くと、荷から着替えを探し始めた。
馬を繋いできますといって一度部屋を出た子龍は、なにか木の実のついた枝を手にして戻ってきた。
「亭主が、少爺にと――茘枝といって、もうすこし西のほうでとれる果実だそうです」
「少爺?」
思わず眉を顰めた。
「失礼だな、少爺(わかさま)だなんて――いったい私をいくつだと思ったのだろう」
「よくて二十代――ではございませんか?」
笑いながら子龍が茘枝とやらの皮を剥く。龍の鱗にも似たその皮を剥くのはなかなか難儀らしく、見る見るうちに子龍の手は果汁でべとべとになった。
「――まあ、おひとつ」
差し出された実を、言われるままに口に含む。少し弾力のある果実の層はほんのすこしで、あとは硬い種だった。なんと贅沢な食べ物だろう。
「いかがですか?」
「――甘い、すごく」
種を吐き出しながら苦笑する。これはさすがに、私にとっても甘すぎる。
「子龍にもひとつ剥いてやる」
「それがしは、甘いものは――」
思ったとおり、断ろうとする子龍の手を掴み、滴った果汁をそっと舐め上げた。その感触にか、私の大胆さにか、驚きに目を見開く。
「甘いものは――何?」
その様がおかしくって、もう一度子龍の手指を吸う。旅に出てから、野宿の時は勿論、宿に泊まった時もろくに睦み合えなかった。そうでなくとも、子龍は誘いを断るような男ではない。微笑むような眼差しに、強烈な色気が滲む。
「まあ――味見くらいは」
ゆっくりと重ねられる唇。割って入った舌は、全てを味わうかのように、口内を這い回った。
ほんとうに――
ほんとうに、私に甘いな、この男は。
雨音に目が覚める。宿に入った時よりも、さらに雨脚が強くなったようだ。湿った空気と、けだるいからだ。精はすっかりと清められているようで、不快さはない。ふと瞳をめぐらせると、湯でも入っているのか、手桶から湯気が出ていた。
「――亭主にばれたかな」
「おそらくは」
声は、すぐ上から聞こえた。声にまったく動じた様子がないのが、なんだかずるいと思った。
無言でそっと、子龍の胸元に顔をうずめる。ゆったりとした鼓動と、深い呼吸。加えて優しく大きな手で、背を撫ぜられる。せっかく一度目覚めたのに、またゆるゆるとまどろみの淵へと落ちていく――
「そろそろ、成都へ引き返しましょうか」
「――え?」
思わず顔を上げて聞き返した。
「日程を考えるとそろそろ戻らなくてはならないと思いますよ、それがしはともかく、貴公が一月以上留守にするのはまずいでしょう」
しばらく、言葉が出なかった。忘れていたわけじゃない。ただ、
このまま二人で、どこまでも行けるかもしれない――と、思ってしまっただけだ。
「そう、だな」
苦笑しながら言った。
「もう、戻らなくては」
「若しくは」
子龍が微笑む。
「このままずっと――西の果てを見に行きますか?」
雨の音が一瞬、途絶えた気がした。
「・・・いいの?」
「ええ、」
子龍の手が、私の髪に触れる。
「進むも戻るも――すべてを貴公に委ねましょう」
雨は、夜のうちに止んだようだった。
軽く朝餉をとって、そのまま宿を出る。子龍は何も言わなかった。ただ、静かについてきた。
川辺まで馬を進めて、そこで止まった。
滔々と東する川。このまま上流に向かえば西の果て。下流へ進めば、猥雑な仕事がたまっているであろう成都だ。
そっと目を閉じて、風を感じる。水気を含んだ冷たい風が、肌を心を洗うようだった。
「――子龍、お前はやさしいな」
「左様でございますか?」
「ああ、」
目を閉じたまま、私は言った。
「やさしくて、ひどい男だ」
進むか戻るか、敢えて己で選べというのか。
ゆっくりと目をあける。川の東する先に、のぼったばかりの朝日があった。
「――さあ、」
私は、手綱を引いた。
「戻ろうか――私たちが、生きる場所へ」
迷いも不安も、総て風に流した。
お前となら、どこへだっていけるさ――
そう微笑みかけると、子龍も微笑み、無言で肩をたたいた。その手はやっぱり、優しかった。
***
年末ちょこおふのカラオケで歌った時、歌詞に感激したかまあげたんに「かんさんこれで1本小説かいてよ!」といわれた。
正直この歌は歌だけで完結してると思うんだけど、やるだけやってみたよ。
ちなみに元ネタ↓
この歌、高音つかいの俺ですらキーが高すぎて歌えなかった(笑)